囲碁AIがトッププロに勝利する時代になってきた。先に李世ドル九段に勝った「アルファ碁」はマシン能力が抜群のため、仕方がないと思っていたが、今回井山六冠に勝った「DeepZenGo」はマシン価格が1000万円程度のことで、一般でもぎりぎり使用できるレベルになってきた。
今後、もう少し調整すれば、家庭用マシンレベルでもプロに挑戦できるレベルになるかもしれない。
それでも、面白いのは従来のコンピュータ囲碁とは逆に詰めがあまりということ。ディープラーニングを使用するとそのようになるということか。途中から思考方法を変更するということはできないのであろうか。
ただ、ディープラーニングはマシン能力さえあれば誰でも作れる手法のため、ソフトをチューニングする面白さには欠ける。

日本製の囲碁AI 進化するも「ご乱心」の詰めの甘さが弱点

(2017年03月26日 NEWSポストセブンより転載)

ついにAI(人工知能)が、囲碁のトッププロが競う国際大会に参加する時代がやって来た──。

日本、中国、韓国のトップ棋士に囲碁AI「DeepZenGo」を加えた四者で世界ナンバーワンを決める「ワールド碁チャンピオンシップ」(主催:公益財団法人 日本棋院)が3月21日~23日の3日間にわたって大阪市で打たれ、韓国代表の朴廷桓(パク・ジョンファン)が全勝で優勝し、賞金3000万円を手にした。
注目の囲碁AI「DeepZenGo」(以降、Zen)は、1勝2敗で3位となったものの、全局で終盤入り口まで優位に立ち、その実力を大いにアピールした。
参加棋士は豪華だ。朴九段は世界戦で優勝経験もある韓国ナンバーワン棋士。中国はランキング2位で若手有望株のビ・イクテイ九段。そして日本代表は、昨年4月に前人未到の七大タイトル制覇を成し遂げた井山裕太九段(現六冠)。
各国を代表するトップ棋士3人との対局前に、Zen開発チーム代表の加藤英樹さんは「1勝したい」と話していた。
Zenは日本生まれ。囲碁ソフトとして成長してきたが、個人用パソコンバージョンでは限界があった。
昨年3月にグーグル社が開発した人工知能AIソフト「アルファ碁」に、元世界チャンピオンの李世ドル九段が1勝4敗で敗れたのをご記憶の方も多いだろう。飛躍的に強くなったのはディープラーニング(深層学習)という革新的な技術を採用したことによる。
ディープラーニングを使うには、コストがかかる。たとえば、アルファ碁が李九段と対局した際には、1局に電気代が数万円かかる装置だったといわれており、開発には資金力も重要な要因なのだ。
そこで手を挙げたのがドワンゴ社の川上量生会長だった。打倒アルファ碁を目指し、ドワンゴ社がハードウエアや開発スペースを提供して、Zenの開発プロジェクトがスタートした。そして、昨年11月には趙治勲名誉名人から1勝をあげるなど、Zenは大きな進歩を見せている。
ワールド碁チャンピオンシップに先立ち、3月19日には、囲碁AI同士による「第10回UEC杯コンピュータ囲碁大会」が行なわれており、Zenは2位。優勝は「絶芸」(中国)だった。絶芸は、アルファ碁の論文を踏襲し、わずか1年で開発されている。
ちなみに、今回Zenが使った装置は原価約200万円にプラス手をかけて500万円くらいだという。「売っていませんが、売るとしたら1000万円くらいかな」と加藤代表。
実際に動かしている場所は、なんと北海道なのだという。コンピュータは自身も電力を使い、発熱するので、冷却にも電力を使う。なので、気温が低く、電気代も安い北海道とネットワークで結んで動かしたのだ。「便利な時代になりました」と加藤代表。
Zenの1日目はビ九段との対戦。優位を確立したものの、最後、詰めの局面で負けていると誤認識して“暴走”。惜しい負けを喫した。
2日目は朴九段との対局。中盤で大きく優勢になったのに、またもや詰めの段階で“ご乱心”。アマ有段者ならわかる簡単なミスを連発して自滅した。
「途中までトップレベルに互角以上の戦いを見せた」(前十段の伊田篤史八段)のに、「歯がゆい。最後までしっかりやってくれよ。強いだけに残念」と、趙治勲名誉名人は、まるで弟子を叱るような口調で嘆いた。
最後の詰め(囲碁では「ヨセ」という段階)は、人間なら能力と時間があれば正解に行き着く。AIのZenはなんと、そこが弱く課題なのだという。
ディープラーニングは、人間が正解を出せない部分(特に序盤、中盤)が強い。これまでのコンピュータのイメージとは全く逆なのだ。人間ならそこまで強い(理解できている)のであれば改善するのは簡単に見えるのだが、AIはそうはいかない。そこだけ直す、というわけにはいかないのだそう。
朴九段は「気がつかない好手を打たれ、慌てました。投了してもおかしくない状況まで追い詰められた。Zenからいろいろな戦い方を学びました。意味のある対局でした」と、AI対局を振り返った。
3日目の井山九段との碁では、序盤でZenは大胆な捨て石を決行した。人間には井山九段が大いに有利にみえたのだが、Zenは違った大局観を持って、それを証明してみせた。
「人間は読みきれない展開は怖いので、その方針を避けてしまいます。AIは怖がらないのでやっていく。その分、少しずつ人間が損を重ねていくようです」と加藤代表は分析した。
結局、それまでの2局であった“ご乱心”は、なぜか井山九段との碁では起こらず、1勝を挙げた。
「あんな石を捨ててもモトが取れるなんて、人間にはわかりません。認識が違う。Zenは大局観が優れています」と、前王座の村川大介八段。瀬戸大樹八段は「人間はZenより正確に打てる部分がある。人間も鍛えればまだまだ強くなれる。そんな人間の進歩の可能性を感じました」。
アルファ碁と絶芸は、Zenのような失速は見られない。
アルファ碁や絶芸が最初からAI、ディープラーニングを採用しているのに対して、Zenは「生い立ち」がパソコンで使える囲碁ソフトだ。Zenにディープラーニングを取り入れているので、「他より試行錯誤が増えます」と加藤代表。
Zenにとっての大局観とは、ビッグデータを統計的に最適化すること。終盤の乱れは、「誤認識」によるもので、学習で安定していくと見ている。
コンピュータ囲碁に詳しい王銘●(=王へんに腕のつくり/おう・めいえん)九段は「Zenは思った以上に強かった。予想以上に、優勢に立った。課題は無限にありますが、アルファ碁と同じではつまらない。みんなが応援できるものを創り出してくれれば」とエールを送った。

取材・文■内藤由起子(囲碁観戦記者)